第6話:第一不思議『誰のものでもない原稿』_4

或いはソレが生きていると仮定して。

 その後のことは、よく覚えていません。

 でも、確かに、確かにそれ以降も影は居続けました。

 ……となると、みんなが辿り着くのは「結果に納得してないんじゃないか?」になるんですよね。
 それはそうかもしれないって。

 最初に、私たちは彼の印刷物をすべて処分したじゃないですか。シュレッダーにかけて。だから、本来ならあの部誌に彼の作品は載らなかった。
 それが彼的に認められなくて、部誌へ載るようにしたんだと思いますけど……。

 ちゃんと覚えてないけど、記憶が鮮明になるシーンもあって。

 何となく部誌の話がまたタブーになって、それでも影の気配は消えなくて。
 実害があったわけじゃないから、もうみんな慣れたもので、またいるなってくらいの気持ちだったんじゃないですかね。

 そんなある日、部長を通して全部員とあの部誌を作る時に手伝ってくれた子たち、全員部室に集合するように通達があったんです。
 それなりに人数がいたから、まぁまぁ広めの部屋を部室にしていましたけど、久しぶりに全員とプラスアルファ集まったら、やっぱり狭いなって。

 そんなどうでも良いことを考えながら、何の話だろうってソワソワしました。
 まぁ、部誌の話題が上がってたので、それ関係の話なんだろうな……っていうのは、なんとなくわかっていましたけど。
 いろんな意味でソワソワしません? だからこの場合のソワソワって、間違ってないですよね?

 ……とにかく、みんなが何だ何だと待っている中、口を開いたのは部長でした。

「文化祭で発行した部誌について、話がある」

 って。

 何だか妙にあらまった言い方で、急に身構えちゃいました、私。
 何にもしてないんですけど。パトカー見かけたときに、何もしてないのにドキッとしちゃうのと同じですかね?

 その後何を話すの? と思っていたら、部長黙っちゃって。
 けれど、誰も何も言えなくて。
 ただひたすら、お互いがお互い誰かが口火を切るのを待っていたら、顧問がやってきました。
 部長は、顧問がくるのを待っていたんだと思います。安心したような顔をして、そこからまた話し始めました。

「あの印刷物の正体がわかった」

 なんて言い出すんですよ。
 ざわつきましたよね。
 「どういうこと?」「何の話?」「誰が犯人だったの?」って。

 だいたいみんな、そんなようなことを口にしていました。
 話すに話せない状況もあったし、その日も相変わらず影はいるし……で、みんなとっくに、キャパオーバーしてたんですよ。コレに関しては。

 卒業するまでこのままなんだろうな……って、私もぼんやりと考えていましたし。
 卒業しても、文化棟にはまだあの影って出てくるのかな、とか。また部誌に原稿載せるのかなとか。それなら、卒業後も文化祭覗いてみようかな、とか。

 別に、面白がってるわけじゃなくて。怖いもの見たさ……っていうか、何ていうか。ありますよね? そういうのって。

 部長も何となく、話すのを躊躇っているように見えました。
 気のせいだったかもしれないですけど。少し、核心に触れるのに、時間のかかった記憶があるんです。
 そういうときって、話し辛いんだなって思いますよね? 私はそう思いました。みんな何も言わなくて。空気はピリッとして、多分同じことを考えていたんだと思います。

「あの黒いベタ塗りの紙の用途はわからないけど、インクが飛び散ったような紙と、ひらがながビッシリ羅列された紙の使い道があった」

 それを聞いて、あの紙に意味があったんだ、って思いました。

 でも、そうですよね。
 わざわざ死後何年も経って部誌に原稿を載せるのに、意味のないものは載せませんよね。話になっているならまだしも、文字すらない紙だってあったんですから。

 そのころもう、みんな部誌を廃棄していたみたいで。持っている人の確認は誰も挙手しませんでした。
 唯一持っていたのは、その確認をした部長本人だけで。部長はおもむろに部誌を解体して、勝手に混入していた紙を三枚抜き取りました。で、私たちに見せるんです。

「こうやって、紙を重ね合わせたら、空いた部分に浮かぶ文字が文章になった」

 ……読めました、読めちゃったんです。

 文章が。

 掠れの薄いところや空白が、上手いこと二枚紙を重ね合わせて光に透かすと、下の文字を抜いたんです。

 何が書かれていたか?
 ……えーっと、ハッキリ覚えてないんです。驚きが勝っちゃって。

 でも、両親への感謝とか、友達への気持ちとか、そういうのだったと思います。だから、その文章は怖いっていうよりも悲しい……って感じましたね。これは無念だなって。

 部長はこれを持って、顧問と一緒に主と思われる元生徒の家へ行ったそうです。
 間違いないのか? は、多分としか言いようがないですね。でもほら、文末に名前が載っていましたから。ペンネーム。
 親御さんには会えたみたいで、最初は怪訝な顔をされたけど、最終的にはお礼を言われて帰ってきたそうです。

 気味が悪い……なんて思わないのが親なんですかね?

 無事に原因も理由もわかって、めでたしめでたし――すると思いましたか? おかしくないです? 何でそんな凝ったことを幽霊がするの? とか、文字が浮かんだのは偶然じゃないの? とか。
 文章には部誌のことについて一切触れていなかったし。無理矢理な感じがしないでもなくて。

 ……それにね?

 雨の降る日は、未だに知らない誰かが文化棟を歩いているみたいなんです。
 私は今年卒業したけど、後輩は残ってますから、顧問も。話に聞くんですよね。うん、私も、卒業まであの影を感じ続けました。

 ……成仏していないなら、部長が唱えた説はおそらく間違ってるわけで。

 だから、私が最後に載せた部誌にも、同じものが載っていたのもおかしい話じゃないですよね?

 もしかして、誰かが本当の理由を知るまで、部誌にあの意味のわからない紙が残り続けるのでしょうか。


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