第21話:反応_3

或いはソレが生きていると仮定して。

 昨日文化棟へ行ったが、今日も文化棟へ行く。
 授業の終わるチャイムを聞き流して、すぐに向かったのだが、なぜかカゲはまだいなかった。

「……あれ? まだ来てないのかな?」

 まだ来てない……はずはない。私はカゲが文化棟以外にいるところを見たことがないし、彼の居場所はここのはずだ。
 しかし、誰もいないのはすこぶる退屈である。仕方なしに、そういえば頼まれていたかもしれない、資料整理の続きをやることにした。

「……新聞多くない?」

 新聞のやま、ヤマ、山。どれも古い新聞だ。色褪せていたり、シミができていたり。中にはくっついてしまったものもある。
 てっきり、掃除用に残してあるのかと思ったが、こんなに古い新聞でなくても、最近の新聞を使えば良いはずだ。

「何か、理由でもあるのかな?」

 残していたということは、何かしら理由があるはずだ。しかし、幾つか中身を見てみたが、特に思い当たる節はなかった。

 ガチャッ。

「……あぁ、ここにいたんだ」
「カゲ!」
「いつもの部屋にいなかったから、こっちかなって」
「どこにいたの? 見当たらなかったから、資料整理に来たんだけど」
「悪かったね。今日の朝の掲示板も盛況だっただろ?」

 カゲがいなくて少しムッとした気持ちになっていたが、七不思議の話をされて気が変わった。

「そうなの! いつも通り女の子が登校してきて、みんなそこから続々と来たと思ったら、キャーキャー悲鳴上げていっぱい写真撮ってたの!」
「そりゃ盛り上がったようで何より」
「カゲの考えた話使って良かった! ……またよろしくお願いします」

 私は胸の前で手を合わせ、カゲを拝むように目を閉じた。

「やめてよ。俺神様じゃないし」
「つい」

 ありがたくて拝んでしまった。ハッキリしないカゲで、全体の見えないところが、ちょっと本物の神様っぽい。

「……あれ? 何持ってるの?」

 カゲは手に何か持っていた。

「え、あ、これ?」
「うん」
「あー……新聞」

 意外だ。幽霊が新聞を読むなんて。

「カゲ、新聞読むの?」
「たまにね。……七不思議を作るにも、ちょうど良い資料になると思うけど」
「そう? でも、確かにそうかもね。事件事故の話も載ってるし、悪くないかも」

 私は、さっきまでぼんやり見ていた古い新聞を読むことにした。

「大きな事件事故なら、話の素になるかな?」

 大先生に聞いてみる。怖い話は、やっぱりカゲのほうが一枚上手かもしれない。

「なるかもしれない……けれど、しっかり精査しないとただの不謹慎な話にしかならないよ」
「が、頑張るよ……」

 怖がらせたいが、誰かを悲しませたくはない。傷付けたくもない。

「そっちの新聞は、何が書いてあるの?」
「これは……事件の話だよ」
「どんな?」
「……」

 カゲは言い辛そうだった。
 手に持っていた新聞をクシャリと握りしめて、見えない彼の目は、私を見据えているように思えた。

「……女の子が、自殺したんだ」
「自殺で新聞に載るの?」
「そこへ至るまでがね。……彼女の辿ってきた人生が、壮絶だったんだ」
「だから? 新聞に載ったの?」
「そんなところだよ」

 新聞に載るということは、よほど興味深い人生だったのだろうか。少し、興味が湧いてくる。

「可哀想。……七不思議にできる?」
「俺の話聞いてた?」
「聞いてた」

 大きな溜息を吐いて、カゲは呆れたように言った。

「不謹慎」
「……ごめん」

 そんなつもりはなかった。ただちょっと、ネタを思いつく糧になれば良いなと思っただけだ。

「……小さなころから、親きょうだいから虐待を受けていた。幼稚園へは行かず、小学校は休みがちだったけど通った。中学校も。……いじめにあっていたみたいだね。それでも、高校も通ったと。虐待されてもいじめにあっても、彼女は頑張った。……その結果が」
「自殺?」
「そうだよ。そうだ」

 カゲの声は震えていて、怒っているようにも泣いているようにも感じた。こういう時、表情がわからないのは不便だ。

「今の新聞より、昔の古い新聞のほうが、規制も少なくて詳しく載ってるんじゃない?」

 話のすり替えだと思ったが、私は気まずさからその話に乗った。

「それもそっか。こっちの記事読んでみるよ」
「この学校の七不思議でしょ? こういう記事だけじゃなくて、学校が出してるちっちゃい新聞とか、今までの卒業アルバムとか、そういうのも見たら? 幸い、資料はいっぱいあるわけだし」

 この部屋を見渡す。カゲの言う通り、資料なら沢山ある。……というか、資料しかない。

「次の話を載せるまで、あと四日か……」
「考えるのも意外と大変だよな。俺は一依の話聞いて、自分が思いついたことを付け足してるだけだけど。一から物語を作るって大変だと思うよ」

 その言葉は、私の努力が認められたようで嬉しかった。

「だからあの朝一の反応が、めちゃくちゃ気になっちゃうんだよねぇ。自分は頑張ったと思ってるし、それなりに自信もあるからさ。どうしても良い反応がもらいたいなって」
「真っ当な感覚だと思うよ?」
「ありがと」
「……楽しみにしてるよ、俺は三日後を」
「うん、うん」

 カゲから期待をされたら、張り切るしかない。張り切って良い話を作るしか。
 私はそれが楽しいから、やりがいを感じていた。今までの人生で、一番やりがいを感じているかもしれない。だって、こんなに期待されることも、求められることもなかったから。

 それから毎日資料を漁って、ネットで学校の七不思議や都市伝説について調べながら、あーでもないこーでもないと話を練った。
 昔の新聞は自分の知らない事件や事故が載っていて、読み物としてつい何時間も読んでしまった。
 学校新聞は、今と昔を比較できて面白かった。書く人の個性も出ている。今もまだ、文化部として新聞部が存続している理由がわかった気がした。

 この新聞に負けないように、私は読んだ話を頭の中で反芻させて、一本の話を作った。
 第四不思議となり得る話を。


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