第20話:反応_2

或いはソレが生きていると仮定して。

「ふあぁ……なるほど……」

 私は間抜けな声を出しながら、カゲの作った話に感心していた。

「名前が消されたら戻ってくる感じ。もっと理由付けしても良いと思うけど。簡易だね、まだまだ」
「でも、いなくなったことと帰ってきたことに、ちゃんとした理由ができたよね」
「大事かなって。みんな戻ってきたから、この話はハッピーエンド。……実は、昔いなくなった子は戻って来てないから、ちょっとバッドかも」

 多分、カゲは今笑っていると思う。

「制服の違う……って子たちだよね。時間が経ち過ぎていた……って理由はできるよね」
「そうだね。じゃあ次は、バッドエンドにしようか」

 カゲの作るバッドエンドが、どんなものなのかすごく気になる。私はじっとカゲの口元を見た。

「そうだね、Bちゃんが戻ってきたところまでは同じにしようか。一人は戻ってきた。その後」

 ***

 Bちゃんが帰ってきたから、先生たちは全員の名前を消そうとしました。
 ただ、消えるボールペンを使ったのは、Bちゃんだけだったみたいで。消すことがないからか、鉛筆やシャープペンシルで書いている子はいなくて、どうやって消そうかと、先生たちは躍起になっていました。

 Bちゃんが戻って来た今、みんなを解放できるかもしれないのに、消せない名前がある。
 砂消しゴムは、表面を何とか削ってはくれたけど、紙も同じくダメになっちゃったんですよね、削れた部分が薄くなって破れて。
 修正液は、やっぱり文字を上から見えなくするだけで消してはいない……という扱いなのか、そこから何日経っても、Bちゃん以外誰も戻って来てくれませんでした。

 書いてあるのは小さくて薄い紙だから、何を試すにも限界が出てしまって。

「いっそのこと、なかったことにすれば良いんじゃないのか……?」

 誰だったかはわからないけれど、先生の一人がそう言ったのを覚えています。それを聞いた担任は、生徒手帳を持って職員室を出て行きました。

 何でこんなことを知っているのかって? 他の生徒へ教えない代わりに、担任に無理を言って同席させてもらったんです。
 だって、私の拾った誰のかわからない生徒手帳に、いなくなった人たちの命がかかっているかもしれないんですよ?

 私は当事者なんです。
 ……私だって、向こう側へ行っていた可能性があるんですから。

 ――えぇっと、担任はそのまま中庭まで行って、コンクリートの地面の上で生徒手帳を燃やし始めました。正確には、名前が書いてあるページを。

 先生、すごくストレスが溜まると、煙草を吸う人だったんですよね。生徒には隠してたみたいだけど、ニオイでわかります。ウチはよく、父が吸っていたので。

 チリチリと生徒手帳の紙が焼けていくと、みんなの名前があった場所が黒く焦げて穴も開いて、すぐに灰になりました。
 ユラユラと揺れる炎は、少しだけ綺麗でした。

 ……予定外だったのは、生徒手帳自体がすべて燃え尽きてしまったことでしょうか。
 燃え尽きて、後には少量の灰と焦げたニオイに、少しばかり焼けたコンクリートしか残らなかった。該当のページだけ燃やして終わりにするつもりが、全部燃えちゃったんですよね。

 私はその一瞬を見逃していて、先生が「やばい」と言った時には、もう全体的に火が点いていました。
 そんな状態でも『名前を燃やして消した』ことには変わらないと思いました、私は。

 でもね。こういうときにピッタリな言葉だと思うんです。「運命とは時に残酷である」って。

 なぜかって、知りたいですか?

 ……そりゃあそうか……ここまで話したなら、結果どうなったのかもちろん知りたいですよね。私だって知りたいと思いますよ、同じ立場なら。

 黒とか白っぽいカサカサした粉と小さな塊、そして灰が、みんなの家の前に置かれていたそうです。白い紙が敷いてあって、その上に盛られるようなかたちで。
 誰かの悪戯でもおかしくないけれど、どの家も丁寧にそれを袋や箱へ入れて、学校に連絡したそうです。

 ……みんなが誰かって? そんなのもちろん行方不明になった生徒ですよ。

 示し合わせたように置かれたソレは、粉っぽくってすえたニオイがしたそうです。
 いたずらかもしれないけど、それだけ置かれた家は、生徒は戻って来ませんでした。Bちゃんの家の前には、置かれなかったそうです。
 保護者の一人が、ソレがなんなのか、成分を調べたんですって。……人の骨でした。全部ひっくるめて、遺灰って意味なのでしょうかね?

 燃えちゃいました、みんな。みんな。

 担任はそこから気を病んで、学校へは来なくなりました。この流れなら、誰だって思いますよね?

『自分が生徒手帳を燃やしたから、名前を書いた生徒たちも一緒に燃えてしまった』

 って。

 すぐに新しい先生がやってきて、今も私のクラスの担任をしています。
 ……生徒が消えたことも、戻ってきた生徒が一人だっていうことも、前の担任がしてしまったことも。何も知らない先生が、ちょっと羨ましいです、私。

 ――たまに、考えちゃうんですよね。今ここにいるBちゃんは、私がクラスで一緒に過ごしてきた、あのBちゃんなのか……って。

 だってそんなの、誰にもわからないじゃないですか!

 文字の跡は残ってたから、100パーセント消えたわけじゃないですし。ときどき、意識がなくなったみたいにボーっとしているBちゃんを見ていると、何だか無性に不安になるんですよね。

 ***

「……とまぁ、こんな感じなんだけど」
「Bちゃん以外全滅エンド……確かにバッドエンドだ。しかも、Bちゃんも本当の意味で無事なのか不明……か」
「わりと面白く仕上がったんじゃない?」
「バッドエンド利用させてもらう! ふふふ、明日を楽しみにしてなさい!」
「張り切ってるねぇ」

 ――相変わらず、一番に登校してきたのは例の女子生徒だ。

 いつもと変わらない日常に突然現れる不思議は、もう彼女を不安にはさせずに、その顔に笑みを称えさせるようになっていた。


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