第9話:第二不思議『タナカ先生、至急、職員室までお戻りください』_1

或いはソレが生きていると仮定して。

 ――これは、僕が実際に高校生のころ体験した話です。

 僕はいわゆる帰宅部でした。いくつか体験入部もしてみたんだけど、イマイチどれもしっくりこなくて。
 やってみたい気持ちはあるんだけど、飽きっぽい性格もあって、なかなか続かないんですよね、何でも。それは今でも変わらなくて。
 恥ずかしい話なんですけど。昔っからこんな性格なんです。

 まぁ、でも、帰宅部でも良いことはあって。
 出席率だの大会だの何だの、そういうのは気にしなくても良いし。
 時間が空くからこっそりバイトしてたんだけど、そっちはそっちで良い経験ができたと思っているし。
 塾は行ってなかったんだよね。普通評価の四年制大学へ進学したけど、ほら、あのころはまだ、塾だの家庭教師だので勉強しなくとも、何とかなった時代だったからさ。

 あぁ、それで。

 友達と、授業が終わってから校舎に残ってることも多かったんだよ。
 夏とか冬とか、外に出ると暑いし寒いしで、でも友達とは適当に喋っていたい……なんて時期なかったかな? 僕はあったんだけど。
 バイトしてたし小遣いももらってたけど、毎回買い食いするわけにも、どっかで飯食うわけにもいかなくて。そうなると自然に、学校に残るって流れになるんだよね。これが意外と、学校も寛容でさ。

 今ってどうなんだろう? 用もないのに残ってると怒られるのかな? それとも、追い出される?

 わかんないけど、僕らのころは平気だったわけ。テスト期間の前とか真っ最中は、結構なヤツらが残ってたよ。

 あれは確か、入学して、半年くらい経ったころだったかな。
 まだちょっと、暑かったような気がするんだけど。その日も相変わらず、友達と何でもない話を教室でしてて。

 そしたら急に、校内アナウンスが入ったんだよ。

『――タナカ先生、タナカ先生、至急、職員室までお戻りください。保護者の方からお電話です。――もう一度繰り返します。タナカ先生、タナカ先生、至急、職員室までお戻りください。保護者の方からお電話です』

 って。
 先生の呼び出しって、ちょっと珍しいなって思って。

 っていうのも、どの学校にもあるのかは知らないけれど、僕らの学校は、教室の壁に受話器みたいなのが付いてて、それを電話みたいに使って、職員室から呼び出されることがほとんどだったんだよね。
 会社の内線みたいな感じかな? だから、こんなに大々的に呼ぶのも珍しいなって。
 でも、もう授業は終わってるから教室にいるとは限らないし、校内のどこにいるのかもわからなかったら「きっとこうするのが一番なんだよね」って勝手に納得したよ。

 別に僕らには関係ないから、そのまま喋ってたわけ。

「――おい、お前らまだ帰ってなかったのか?」

 って、先生が一人教室に来たんだよ。

 何か、顔はちょっとホッとしたみたいな表情なのに、声は焦ってるみたいで。チグハグで違和感があったんだけど。
 まぁ知ってる先生……担任じゃあなかったけど、同じ一年の別のクラスの担任で、僕にとっては教科担任だったわけで。
 帰れって言われるかな? と思ったんだけど、まだちょっと喋り足りなかったし、話も盛り上がってきたところだったから、帰りたくなかったんだ。みんな同じようなことを考えてたのか、めんどくさそうな顔してた。

 いやね、恋愛話してたんだよ。高校の時、恋愛話って特に盛り上がらなかった? あの、大人と子どもの間で、甘酸っぱい感じが。今から考えたら、全然子どもなんだけどね。背伸びするでしょ? 子どもって。そこが良かったよね。

「今すごい盛り上がってて! これ終わったら帰るから許して?」

 って言ってみたんだよ。
 実際、その話が終わったら帰っても良いかなって思ってたし。外もまだ完全に暗くなったわけじゃないから、危ないって感じもしなくて。ダメって言われたら、帰ろうと思ってたけどね、怒られたくはないからさ。

「そうか……。じゃあ、先生も混ぜてくれ」

 なんて言うんだよ。
 年齢は三十代だったのかな? 確か、結婚して、子どももいたと思うんだけど。……独身ならともかく、既婚者子持ちの先生が高校の生徒の恋愛話に混ざる!? マジで!? って、その時は思ったよね。
 だから、みんなで顔見合わせちゃったんだよ。絶対全員、同じこと考えてたと思うよ? ひょうきんな感じじゃなくて、どっちかって言うと堅物なイメージもあったし。
 まーでもさ。何だろ、それはそれで面白いじゃん? 先生と恋愛話とか。しないでしょ? 普通。相手は大人なわけだから、アドバイスもらえたらラッキー……くらいの気持ちで。

「いいよ! 先生も話聞いてよ!」

 って、先生も交えて話してたわけ。

 あ、ちなみにその先生はタナカ先生じゃないよ。

「あんまりうるさくするなよ。廊下に響くからな」

 とは言われたけど、先生自身がドアも窓も閉めたし、声のボリュームは普通くらいに抑えて話したわけ。たまに笑ったり、ちょっとテンション上がったりもしたけど、概ね誰かに迷惑かけるようなことはしなかったと思う。
 そのまま一時間くらいかな。先生も含めてダラダラ恋愛話をしていたのは。


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