第8話:放出_2

或いはソレが生きていると仮定して。

 ない頭をひねりながら、私は一生懸命ふたつめの不思議を考えた。
 『カゲが気に入ってくれたら良いな』なんて思いながら作るのも悪くない。

 そんなこんなでできあがったふたつめの話を引っ提げて、まず私はひとつ目の不思議を生徒に広めるべく、校舎へ向かった。

 朝早いからか、校舎には誰もいなかった。
 当直の用務員さんがいるかもしれないが、明るくなりかけの今はきっと巡回時間じゃない。

 私は悩みながらも、校内で一番人目につくはずの、一階中央土間にある掲示板へ、第一不思議を載せた紙を貼った。

 掲示板は各部活の紹介や、学校新聞が貼られる場所だ。
 ほかに校外で行われるコンテストや、生徒が行けそうなイベントのお知らせが掲示されていた。

 この中にあっても目立つように……と、私は文字の色を赤黒くして、まるで血文字で書かれたような文章にした。ちょっと掠れていて、文字の書き始めはところどころ血だまりになっている。筆をおいたら、きっとこうなるだろう。
 それから、あえて文字サイズは不揃いにした。一枚の大きな紙へすべての文を載せても良かったが、折角なので何枚かにわけてバラバラに貼り付けた。バラバラに貼り付けていても、絶対に同じものであるとわかる。
 ついでに、ただの紙じゃ面白くないから、適当なサイズの焦げ穴を作った。最後に、水とコーヒーを落としたシミも。ヨレヨレになった後、乾燥した部分が引きつってカサカサになっている。たまに、文字へ水とコーヒーをかけるのも忘れなかった。もちろん、読める範囲で。

 その出来は、私の中ではなかなか上手くいったと思えるものだった。
 何も知らない人がこれを見たら、ギョッとするに違いない。そして、怖いと思うはずだ。同時に『誰かに話したい』とも。
 ……思わずニヤついてしまうくらいに自信はある。

 こうして出来上がった、七不思議の第一不思議お披露目会場に満足した私は、この後起こる騒ぎを楽しみにしながらその場を去った。

「――それで? その顔はどういう顔なの?」
「これ? 『みんなが怖がってくれて嬉しい』って顔だよ」
「あぁ、そうだったんだ」

 カゲは納得してくれたようだ。

「え、そんなわからないような顔してる?」
「うん」
「えぇ……結構わかり易い顔してると思うんだけどな」

 最初にアレを発見したのは、ほぼ毎日同じ時間に、誰よりも早く登校してくる女子生徒だった。

 あの中央土間を教師は使わない。だから、必ず生徒が第一発見者になることはわかっていた。
 その生徒はじっくり掲示物を見た後、スマホで写真を撮っていた。そして、次の生徒がやってくるまで彼女はそこにいた。
 学年色が違うことから、他の学年だと思われる男子生徒が、次にやってきた。彼女は不安そうに話しかけ、一緒に掲示物を見た。
 最初は訝しがっていた男子生徒も、時間が経つにつれて微動だにしなくなった。そして、第一発見者の彼女と何か言葉を交わすと、二人で次からまたやってきた生徒へ、掲示物を紹介し始めたのだ。

 中央土間はあっという間に人で溢れかえり、写真を撮ったりその撮った写真をSNSへ載せたりと、やりたい放題だった。
 騒ぎを聞きつけてやってきた教師が全員を教室へ帰らせるまで、今までにこんなに人の集まることがあっただろうか? と思うくらい、土間には沢山の人がいた。
 生徒たちは教室に戻ったから知らないが、教師たちもまた、あの紙を写真におさめていた。流石にSNSに載せる大人はいなかったが、学校中この話で一日もちきりだったのは言うまでもない。

「ぜーんぶ思った通りですよ」
「それで嬉しい顔をしているんだね」
「してやったり」

 わたしはわざと、悪い顔をする。

「楽しそう」
「楽しそう、なんじゃなくて、楽しい、の!」
「こんなに上手くいくなんて、って?」
「そうだよ? 私、なかなか上手に加工できたと思わない?」

 帰るころには、あの紙は剥がされていた。
 最後にあの場を去った教師が、剥がすべきだと判断して職員室へ持って行ったのだ。でも、捨てなかった。捨てるつもりだったのかもしれないが、その教師の机の上に、ほかの書類やファイルに混ざって、乱雑に置かれていたのを見つけてしまった。

 だからそのまま、私が拝借した。というか、正確には返してもらった。

「ジャーン」
「持ってきて大丈夫なの? それ」
「まぁ、私の作ったものですから? 正当な所有者は私、ということで」

 何度見ても上出来である。
 私だって何も知らずに突然現れたこの紙を見たら、落ち着かない生徒たちと同じ反応をしただろう。

「あー、楽しかった!」
「……これ、七不思議作るたびにやるの?」
「そうだよ? だって、そうじゃないとぽくないじゃん? 今回この形式をとったなら、次からもその形式に則らないと。儀式っぽいしね、そのほうが。怖くない? 突然現れる、今までこの学校になかった、学校七不思議の書かれた紙……って」

 雰囲気たっぷりに答える。

「確かに怖いとは思うよ?」
「でしょ? はー、これでこの文化棟への人増えるかな? みんな本当か確かめたくなるでしょ? そしたらここへ来るしかないもん」
「人が増えても、俺にはどうしようもないよ」
「賑やかになるじゃん!」
「その賑やかさ、必要?」

 呆れたようにカゲが言う。

「そのほうが面白いんじゃないの?」
「人によるよ、そんなの」

 カゲはちょっと不満そうだった。
 私以外に視える人が増えたら、きっと楽しいと思ったのに。私の邪な気持ちが、もしかしてバレてしまったのだろうか。

「で? 昨日の今日で第二不思議考えてきたの?」
「もちろん!」

 私は、昨日思いついた不思議をカゲに向かって話し始めた。


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