無事に神事を終えた後、神社の縁側に並んで座り、久しぶりに二人で話した。からかうように笑う清丸の顔が、昔の小さなころに出会った狐の面影と重なる。でも今は――その目が真っ直ぐ私だけを見ていて、ずるいくらいドキドキする。
「ねぇ清丸」
「ん?」
「……このまま、ずっといてくれる?」
思わず口からこぼれた言葉に、清丸が少しだけ目を伏せた。
「当たり前だろ?」
……消えそうになった清丸は、宣言通り私の元へ戻ってきてくれた。だから、この言葉も信じなきゃ。
「夏祭り、約束通り一緒に行こうね」
話題を変えると、清丸は少しだけ驚いた顔をしてから笑った。
「あぁ、絶対行く。お前が浴衣着るなら、俺もちゃんとした格好してやるよ」
「別に着なくても――」
「いや、着る。絶対あしかが可愛すぎて、他のヤツに見せたくないし隣歩かせたくないから」
「なっ……!」
「冗談だよ」
全然冗談に聞こえなかった。
その後、家に帰る道すがら、頭の中は清丸の笑顔でいっぱいだった。――夏祭り。一緒に花火見られるんだ。胸の奥が熱くて、どうしようもなかった。
――夏休みはあっという間に過ぎて、すぐに祭りの日がやってきた。カラリ、と窓の外で風鈴が鳴る。夕暮れの空はまだ明るさを残しているのに、どこか祭りの日特有のワクワクした気配が街を満たしている。
「ホラ、あしか。じっとしててよ」
「……う、うん」
みっちゃんが背後から私の髪をまとめる手を、ピタッと止める。小さくため息が落ちた。
「じっと、って言ったそばから肩が上がってる。緊張しすぎ」
「してない……してないってば!」
「ふふーん、顔真っ赤なのに? ホラ、清丸くんに会うんでしょ?」
「!!」
ビシッと背中に電流が走った気がした。
「な、何言ってんの! 清丸は、えっと……その、ただの、友達だから!」
「ふーん? でもさ、あしか。友達に会うだけで、浴衣にこんな時間かける?」
痛いところを突かれて、私は思わず唇を結んだ。
――だって、だって。
「……ホラ、今年、折角この街に戻ってきたんだし。祭りくらいちゃんとした格好で行きたいってだけで……」
「言い訳が苦しいなぁ。ほら、動かないの。髪飾り付けるよ」
みっちゃんは器用な手つきで私の髪をまとめ、白地に青い小花のついた小さなかんざしを挿した。鏡の中に映った自分は――ほんの少し、見慣れない。
「……あ、あれ? 思ったより、ちゃんとしてる」
「うん。可愛いよ、あしか」
みっちゃんがふわりと笑って、私の肩に手を置いた。
胸の奥が一瞬で熱くなる。
「……ねぇ、清丸くんに、可愛いって言われたらどうするの?」
「えっ!? い、言われるわけないし!」
「そうかなぁ? 清丸くんなら絶対言うよね? 普段から可愛い可愛い言ってるわけだし」
「っ――!」
思わず振り返りかけた首を、みっちゃんはそっと押さえた。
「ほら、動いちゃだめ。もうすぐ終わるから」
……でも、動かないよりも、私の胸の中がソワソワしてじっとしていられない。そんな私を見ながら、みっちゃんは楽しそうに全部準備してくれた。
「わぁ……!」
神社へ続く参道に足を踏み入れた瞬間、あちこちに並ぶ屋台と色とりどりの提灯が視界いっぱいに広がった。油と甘い砂糖の匂いが風に乗って流れてくる。人混みがワイワイと楽しそうな声をあげる中、私は約束した場所を探した。
「……あしか!」
その声がしたのは、鳥居のそば。人だかりの向こうに立っていたのは、いつもより背筋を伸ばした清丸――。
「っ……!」
一瞬で、胸がギュッと詰まった。清丸は、藍色の浴衣を着ていた。普段の制服や神社での白い装束とはまるで違う、年相応の普通の男子中学生の姿。でも、顔立ちの整った彼が浴衣を着ると、周りのざわめきがひときわ大きくなったのがわかる。
「清丸くん、かっこいい~!」
「やだ、見て見て、あの子!」
参道のあちこちから女子たちの声が飛んできて、私は思わずむすっと唇を結んだ。
(な、何でこんなに騒がれるの……!? 確かに清丸は、カッコイイけど……)
――いや、カッコイイなんて言葉で片付けられない。子どものころの記憶では、カッコ良くもどこか小さくて可愛らしい狐だったのに、今目の前にいる清丸は――。
「……何、そんなジーッと見てんの?」
ハッと我に返ると、清丸が私の目の前に来ていて、口元にニヤリと笑みを浮かべていた。
「な、ななな、なんでもない!」
「へぇ? ふーん……そっか。じゃあ俺も何も言わないでおいてやる」
「……な、何を!?」
「可愛いなーって思ったけど、あしかが俺のこと何でもないって言うなら、俺もあしかのこと何でもないってことにしとく」
「~~~~っ!」
カッと顔が熱くなるのを感じた。音羽にからかわれた時とは違う、もっとどうしようもない種類の熱さ。
「……もう、行くよ!」
「お、怒った? ごめんごめん、あしか、ホント可愛いよ!」
サラッと言うな、そんなこと――!
……そう言い返したいのに、うまく言葉にならなかった。
人混みをかき分けながら、清丸と並んで歩く。提灯の光がフワフワ揺れるたび、どこか現実じゃないみたいに思える。
「……なぁ、あしか」
「ん?」
「ホラ、あれ」
清丸が指差したのは、色とりどりの袋が吊るされた綿あめ屋台だった。ピンクや水色の袋の中で、ふわっふわの白い雲みたいな綿あめが光を受けてきらきらしている。
「食べたいの?」
「お前が食いたいなら」
「え、え、私?」
慌てる私をよそに、清丸はあっさりと屋台に近づき、店主にお金を渡した。
「お姉ちゃん、ピンクのハートつきにする?」
「えっ、えっ!? そ、そんな可愛いの無理……!」
「じゃあ普通ので」
清丸はさらっと言って、普通の大きな綿あめをひとつ受け取った。それを――当たり前みたいに、私に差し出してくる。