第19話:反応_1

或いはソレが生きていると仮定して。

「どう?」

 私は目を輝かせてカゲにそう聞いた。

 できあがった話を聞いてもらう時、私は極力声のトーンを落として、抑揚も少なく落ち着いてゆっくりと、でも発声はハッキリするように心がけている。
 選択した言葉だけじゃなくて、話す時の間のとり方も話すスピードも、物語の部分以外も『怖い』『けど気になる』と思わせるには、重大な要素だと知っているからだ。

 掲示板へ貼り出す時には不要なもの。でも、人へ話す時には必要なもの。

「うーん……。まぁまぁ、かな」
「それしか感想ないの!?」

 再びの厳しい判定に、私はガックリと肩を落とした。欲を言えば、もうちょっと多彩な感想が欲しい。それも、できるだけポジティブな。

「幽霊や人が怖いって話じゃなくて、今回は物が怖い、だったね」
「メインは謎の生徒手帳ですから」
「いなくなった生徒は? 帰ってこなかったみたいだけど、その後はどうなったの?」
「……そこまで考えたほうが良かった?」

 不安になって、思わず聞き返す。

「難しいところではあるかな。これくらいの長さの話なら、わからないまま終わらせて良いと思うけど」
「もっと長かったら?」
「ぼかすよりも、ハッキリさせたほうが深みもより出るかな、なんて。……よし、こんなのはどうだろう? ……あー、明るい話が良い? それとも、暗い話?」
「怖い話なのに明るい話とかある?」

 思わぬ選択肢に、また質問に質問で返してしまった。

「言い方を変えよう。ハッピーエンドかバッドエンド。怖い話だって、結末が明るいものもあるだろ?」
「それもそっか……。じゃあ、両方」
「欲張りだね」
「可能性を知りたいだけだもん」

 カゲは私の先生みたいだ。怖い話の。教師か作家にでもなれば良いのに。

「じゃあまずは、ハッピーエンドから。最後に女の子が手帳を拾って、職員室に持って行く。名前を見つけて、先生がみんなの名前なんじゃないか……って思ったところまでは同じだよ。そこから……」

 ***

 担任は、そこに書かれていた名前がいなくなった生徒のものだ、と気が付いたみたいなんです。
 正直、私のクラスで二人いなくなっただけで多いと思ったのに、それ以上の名前が書かれていたから、私も泣きそうになっちゃって。

 『自分の名前を書いて、持ち物検査に提出しなくて本当に良かった』っていう安堵感と、絶対に良くないとは思いますけど『もし表紙に名前を書いていたら、いったい私はどうなっていたんだろう』っていう好奇心が、頭の中でぶつかり合って喧嘩していました。
 前者が勝ってよかったと思ってますよ。そうじゃなきゃ、試していたかもしれないですもん。自分の名前を書いて、どうなるのか。

「これは消えるのだろうか?」

 ボソッと、横から覗いていた別の先生が言いました。

 私も気になっていたんです。
 だって、これがいなくなった人一覧なら、名前を消したらどうなるのか気になりませんか? 少なくとも今いなくなってるんだから、もうこれ以上悪いことは起こらないはずで。

 ただ、パッと見た感じ名前はボールペンとか油性ペンとか、簡単には消せないヤツで書かれているように見えて。修正液がよぎったけど、あれって白い液で見えなくして、上から書けるようにしてるだけだから、私の思う『消す』とは違ったんです。

 その時思い出したんです。Bちゃんの言葉。今の状態なら、試してもらえる可能性がある。だから、私もつい口に出しちゃったんですよね。

「Bちゃん、生徒手帳の名前は『消えるボールペンで書いた』って言ってましたよ」

 と。

 シリコンみたいなところで擦ったら、熱で消えるアレですよ。私も持ってます。

「物は試しです」

 一人の先生が、自分のその消えるボールペンを持ってきて、担任から生徒手帳をもらって、机に置きました。名前のあったページを開いて、Bちゃんの名前……フルネームを、苗字から消していったんですよね。ゆっくりと、丁寧に。
 名前は消えました。筆跡が残ったけど、それはもう仕方ないですよね。とにかく、ボールペンで書かれた文字自体は消え去りました。

 ……まぁ、その場では何も起こりませんでしたよ。目に見えた即効性はなかった。けれど、次の日。

「おはよう」

 って、Bちゃんが登校してきたんです!
 みんなもうそれはそれは驚いたり喜んだり、感情が忙しかったですよ。とにかく、学校にこられて良かった、多分その場にいた全員が思ったんじゃないでしょうか。

 その日まで、Bちゃんがどうしていたのか気になって気になって、聞いてみたんです。

「どうして休んでたの?」

 って。「どうしていなくなったの?」とは、とても聞けませんでした。Bちゃんはあっけらかんと答えました。

「何か、気が付いたら知らない所にいて、また気が付いたら家にいたんだけど。私もよくわかんない。でも、気が付いた時には何日も経ってるから、私倒れてたのかなって」

 Bちゃん自身、何が起こったのかわかっていないみたいでした。ただ、気になることはあったみたいです。

「何かね、拾った生徒手帳の持ち主に、怒られてる夢見たの。一生懸命謝ったんだけど、許してもらえなくて。『人のものを奪うなら、その仕返しをする』って言われた気がする。……あ。それから……。A君に会ったよ? それ以外にも沢山いたかな? 何かさ、違う制服の子とか……何て言っていのかわからないけど、私とは時代の違う感じで。わかる? この感覚。他のクラスの子と、違う学年の子もいた気がする。でも、私より後なの、後」

 Bちゃんが帰ってきたから、先生たちは全員の名前を消しました。同じインクだった子は同じように、そうじゃない子は砂消しゴムと修正液を使って。

 誰の名前も載っていない生徒手帳になった時、先生に「いなくなった」と言われていた子はみんな帰ってきました。

 ……本当に、良かったと思います。

 ***


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