第18話:第三不思議『持ち物検査』_4

或いはソレが生きていると仮定して。

 私も他のクラスの友人から聞くくらいしか情報がないんですけど。もう、学校の中が常時お通夜みたいになっちゃって。静かなものですよ。はしゃぐほうが悪みたいな空気で。居心地は悪かったですね。

 それで、またやってきたんですよ。持ち物検査の日が。
 そんな状態でまだあるの? って感じですけど。ホラ、誰が何を持ち込んでるかわからないから。信用されてないって怒る子もいましたよ。

 私も、その子に賛成だったかな。それどころじゃないでしょって。
 探すのは、私たちの余分な持ち物でも忘れた物でもなくて、いなくなった生徒なんじゃないのって。

 いつもは朝一で検査があるんですけど、この日は元々決めていた日じゃなかったのか「今日帰る前に持ち物検査あるみたいだよ」って、他のクラスの子が話しているのを聞いて。

 それで気が付いたんですよ。
 その日に限ってバッグを新しくしてて、制服にもバッグにも生徒手帳が入っていないことに。

 血の気が引きました。大したことじゃないのはわかってます。でも、今まで忘れないように頑張ってたのに、この一回で全部台無しになっちゃう気がして。

 物が物だけに、一人ひとつしか持ってないじゃないですか。だから当然借りられないし。
 どうしよう……って考えながら廊下を歩いていたら、何か足に当たったんです。蹴っ飛ばしちゃったみたいで。

 汚れてたけど、生徒手帳でした。

 自然と手に取っていました。私の物じゃないのに。
 一瞬、考えちゃいましたよ。『これを出せば、怒られずに済むかもしれない』って。
 でも、思い留まりました。A君とBちゃんの顔が浮かんだんです。だから、職員室へ届けなきゃ……って思い直すことができました。

 生徒手帳を手に持って、私は担任へ会いに職員室へ行きました。

「これ、落ちてました」

 渡した後、先生は確認しようとしてました、誰の物なのか。表紙に学年もクラスも名前もなくて、私はカバーが汚れているのかな? って思っていたけど、カバー以外も汚れていそうで。
 
 そのまま表紙を開いて、カサカサした紙をパラパラと先生がめくっていきました。

「⁉︎ ――っ、ひぃっ‼︎」

 男の先生だったんですけど、そんな声を出して手帳を落としました。わざとじゃないと思うんですけど。驚いてうっかり落としちゃったのかな。

 他の先生たちは担任を見ていて、どうしたの? って近付いてきて。
 私は、その生徒手帳を拾い上げました。先生はこの手帳を見ていて声を上げたけど、私も気になってパラパラめくったんですよ。

「……うわぁ……」

 割と慣れてました、ホラーな話は。どっちかっていうと興味もあったし、怖がりだけどものによっては全然平気というか、怖くないというか……。考察とか大好きですし。

 なんか、名前がびっしり書かれていたんです、メモの部分に。
 字体がバラバラで、ペンもバラバラだったのかな? 名前は名前だけど、なんとなく『同じ人が書いたんじゃないんだな』って思いました。罫線の幅に比べて大きい文字で、余裕で上下の線からはみ出していました。

 で、気が付いたんです。三個目か四個目くらいに、A君の名前があったんですよ。その下には、Bちゃんの名前も。その後は、聞いたことがあるような名前と、知らない名前がずらっと。

「Cさん……と、Dさん。E君と、F……って読むのかな……?」

 名前を読んでいったら、先生たちの視線に気がつきました。みんな、こっちをジッと見てるんです。
 それが怖くて気味悪くて。何かしちゃいけないことをしちゃったみたいな、それが見つかっちゃった感覚です。いたたまれなくて、でも何でかわからないからどうしようもなくて。

「貸しなさい」

 我に返った担任が、私の手から生徒手帳を持っていきました。

「……アイツらの名前じゃあないか……」

 ボソッと呟いて、私はそのまま教室へ帰されました。なぜか残っていた授業は自習になって、部活も委員会もなくなって、みんな授業が終わって「すぐに帰れよ」って言われたのを覚えています。

 持ち物検査? そのままなくなりましたよ。その日のだけじゃなくて、その日以降予定していただろうすべてが。

 帰って、生徒手帳に書いてあった名前を必死に思い出して、友達にそれとなく聞いてみたら、どうやらみんないなくなった人たちの名前だったようなんです。

 字体が違ったのは多分、本人がそれぞれ書いていたから。

 考えたんですよ。みんなが同じ生徒手帳を拾って、持ち物検査で自分の名前を書いて。そしていなくなった。名前は中に移動して、表からは消える。名前を書いた人も消える。何でかはわからないですけど。

 次の日、担任にこそっと「あの生徒手帳持っていったか?」って聞かれたけど、私は知らないから、正直に「知りません」って答えました。それで、逆に聞いてみたんです。「なくなったんですか?」って。そしたらバツの悪そうな感じで「引き出しにしまっておいたのに、いつの間にかなくなっていた」と。

 ――ところで。
 『鶏が先か卵が先か』って言葉がありますよね? あれって、どっちが先なんでしょう? ……何だかちょっと、この話に似てませんか?

 生徒手帳が落ちていなければ、誰も拾うことはなかった。でも、持ち物検査がなかったら、その生徒手帳は見向きもされなかった。

 って。

 持ち物検査で生徒手帳を調べることはもうなくなったけど、いつから始まったのか、そこまでやる必要があったのか、誰も知らないんですよね。
 これがもしかして「知らぬが仏」の例なんでしょうか。……どう思います?

 私は今日までその生徒手帳を、二度見ることはありませんでした。

 ……でもまだ、どこかに落ちているかもしれませんね。誰かに拾ってもらうために。


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