――ドン、と二度目の花火があがった。私の心臓まで一緒に跳ねた気がした。
「ちょ、ちょっと清丸っ!」
「何だよ、真面目な話してるのに、言っちゃダメか?」
清丸が笑う。でもその笑顔は、いつもの軽口とは違って、本気だった。
「……俺、お前が好きだよ、あしか。誰よりも、何よりも」
その言葉が、花火の音に負けないくらいハッキリ届く。胸がギュッと苦しくなって、何も言えなかった。
清丸が言った。ハッキリと「好きだよ」って。今までと同じ言葉。でも、今までと違う重み。
その瞬間、花火の音がやたら遠く感じた。心臓がドクドクと大きな音を立てながら締めつけられる。顔はもう熱いなんてもんじゃないし、呼吸だってうまくできない。
「……あ、あしか?」
清丸がちょっと困った顔をして覗きこんだ。
「ごめん、やっぱ、俺が言うと軽いのかな。忘れていいから――」
「――忘れないっ!」
気づいたら、私、大声を出してた。清丸が目を瞬く。
「忘れないし……忘れたくないし……!」
「……あしか」
「私だって、私だって……清丸のこと、ずっと好きだったんだからっ!」
言葉が勝手にあふれ出た。顔を上げたら、清丸がすぐ目の前にいて、あの綺麗な色の瞳がまっすぐ私を見ていた。
「ホントか?」
「ホントだよ! 嘘つくわけないじゃん!」
次の瞬間、清丸がフッと笑って、私の手をギュッと握った。いつもみたいな軽い力じゃなくて、絶対に離さないってくらい強く。
「よかった……マジで、よかった……!」
「な、なんで泣きそうな顔してんのよ……」
「泣いてねーよ!」
泣いてるわけないって言いながら、でも清丸の目は少し潤んでた。花火がドンと夜空に咲いて、二人の顔を赤く染めた。
手を握ったまま、清丸がポツリとつぶやく。
「……でも、俺、やっぱりまだ人間じゃないし。ずっとこのまま一緒にいられるか、わかんない」
「……うん、わかってる」
わかってる。でも、もう迷いたくなかった。
「それでも、今は一緒にいたいって思うの。ダメ?」
「ダメなわけあるかよ」
清丸が笑って、少しだけ力を抜いて私の手を包んだ。その笑顔が、今まで見たどの花火より綺麗だった。
「じゃあ決まりだな。これからは、ちゃんと俺の彼女だ」
「な、何勝手に決めてんのよ!」
「お前が好きって言ったんだろ? もう逃がさねーから」
言われて、顔がまた真っ赤になる。でも手は、もう離せなかった。
最後の大玉が夜空を染めて、拍手と歓声が遠くから聞こえてきた。私たちはいつまでも手をつないだまま、丘を下りる。
「……なんか、夢みたいだな」
「夢じゃないよ」
「そうだな。お前がいるからな」
清丸がそう言った瞬間、胸の奥があったかくなった。夏の夜風が頬を撫でていく。
神社の参道に戻ると、屋台の片付けをしている人たちがチラホラいた。
その中で、ココが私たちを見つけて手を振ってきた。
「あっちゃん、清丸くん~! あはは、二人とも、楽しそうだね」
「う、うん!」
「……なんか、いい感じだったみたいじゃない~?」
ココが笑った。いつもの可愛い笑顔なのに、なんだかちょっとだけお姉さんみたいだ。でも次の瞬間、ふっと真剣な顔になる。
「ねぇ、あっちゃん。清丸くんのこと、大事にしてあげてね」
「え?」
「だって、あの子――神さまにだって、ちゃんと選ぶ権利があるんだもの」
意味深なことを言って、音羽はヒラヒラと手を振って行ってしまった。その背中が、いつもより大人っぽく見えた。
……なんだろう、あの言い方。でも今は、それを考えるより、手の中のぬくもりのほうが大事だった。
夜が深くなって、神社の鳥居の前で清丸と別れる時間がきた。
「じゃ、また明日な」
「うん……また明日」
そう言って笑ったら、清丸も同じように笑った。その笑顔が、なんだかすごく嬉しかった。また明日も、その次の日も、こうして笑えたらいい。そんな当たり前みたいな願いが、今はすごく幸せだった。
――夏休み最後の日曜日。
神社の境内にある石段で、私と清丸は並んで座っていた。
「……で、なんでお前はそんなに距離とって座ってんだよ」
清丸が不満そうに言う。
「だ、だって! なんか、近いと変に意識しちゃうんだもん……!」
「意識してんのはお前だけだろ。俺は普通だし」
「うそつけっ!」
私は思わずツッコミを入れた。清丸は口をへの字にして肩をすくめる。
「……まぁ、ちょっとはドキドキしてるけどな」
「やっぱりしてるじゃん!」
「あしかもしてるんだろ? なら、おあいこだな」
そう言って、清丸はひょいっと私との距離を詰めた。肩が触れそうで、心臓が跳ねる。
「……ちょ、近い……!」
「近いほうがいいだろ。俺たち、もう恋人だし」
「そ、それは、そうだけど……!」
言い返しながらも、私は逃げなかった。だって、清丸の隣にいると、なんだかんだ落ち着くから。
「なぁ、あしか」
「なに?」
「明日も会うよな?」
「うん、会うよ」
清丸は一瞬、子どもみたいな笑顔をした。その顔に、胸が少しきゅっとする。
「よかった。……もう、お前と会えないとか考えたくねぇし」
「……私もだよ」
それだけ言って、二人とも顔を見合わせて、なんとなく笑った。笑い合った後、気まずくて視線をそらす。
まだちょっとだけ、ぎこちない。
でも――。
「……じゃあ、明日も、またここで待ってる」
「うん。……また明日」
夕暮れの空を見上げながら、私たちは並んで座り続けた。肩が触れたり離れたり、少しぎこちないまま。だけど、その距離は、きっとこれから少しずつ近くなっていくんだと思う。
